バンコクのBTS利用者実態調査から(要旨)

日本観光学会誌第37号:2000年12月

――沖縄都市モノレールとの関連から――

 

1、はじめに

1999年12月5日タイのプミポン国王の誕生日に合せて開通したBTS(Bangkok mass transit system)は、世界的に有名になった交通渋滞や環境悪化そして交通事故を減少させるためである。この計画は、1980年からあった都市問題の解決へのステップの第一歩である。その結果、1994年にやっと実施計画が始動した。しかし1997年7月に発生した金融危機により開通が2年ほど遅延したが、600万都市に初めて軌道交通が導入され運行された意義は大きい。今後はBTS路線の延伸や建設中の地下鉄そして高架鉄道の3つのプロジェクトすべての完成が待たれる。しかし高架鉄道の工事は、ホープウエル社との契約が破棄され途中でストップしたままである。都市交通計画段階から工事期そして開通に向けて追いかけてきた一研究者としてBTSの開通の喜びはひとしおである。

当初の計画上の輸送実績が確保できない(1日60万人で運賃15B−60Bが採算ラインと開通前には言明、その後30万人に修正。執筆時の実績は20万人)。その理由には、運賃が高い、高架鉄道なので恐い、タイ人向きは車、との声を聞いた。

開通3ヶ月後の2000年3月20日(月)14:40―16:10、BTSナショナルスタジアム駅に出向き、タイ人利用者52名に対し個人で利用者調査を実施した。開通直後にはサイアム駅でも何人かに聞いてもらった。

本テーマに着目したのは、琉球(沖縄)とタイとの交流史を学ぶ中で同じ頃、規模は異なるが都市の問題解決に軌道交通機関を導入する両市の取り組みを比較分析したかったからである。

沖縄のモノレール計画は、タイのBTS(新交通システム)との共通性として、バス中心の交通生活であり交通渋滞やバス会社の乱立などで経営が困難である事、があげられる。沖縄には軽便鉄道(1914―1945)が走っていた歴史はあるが、長い間軌道交通機関はなく那覇市内中心の軌道交通は初めてである。両都市とも高架鉄道交通であり、温暖な気候と古い交流の歴史そして多くの共通性が人々の心の底に繋がっているかのようである。

 

2、BTS利用者実態調査(バック資料は省略)

a,12月5日の開通からBTSに何回利用しましたか。

1―5回18名、6―10回14名、21回以上8名、11―20回7名、いつも2名、初めて3名。

b,BTSの利用目的は何ですか。

遊び26名、買物8名、仕事7名、学校5名、帰宅3名、その他3名。

c,BTSの運賃はいかがですか。

普通59%、高い39%、安い4%。

d,BTSの良い点は何ですか。(複数回答)

利便性35名、定時性21名、経済性6名、環境性4名、安全性3名、快適性1名。

e,BTSのよくない点(改善点)は何ですか。(複数回答)

ルート37名、運賃14名、EV/ES9名、障害者対策2名、安全1名、混雑1名。

 

3、アンケートの分析と若干のコメント

a,利用者に学生の「遊び」利用が目立つのは夏休みの時期でもあったため。リッチな高校生や大学生が多い。

運賃も「普通」と59%が答えていた。小遣いも肉体労働者の賃金の半分ぐらいをもらっていたり、家には車もある。外国人(観光客)には路線が分かりやすく評判がいい。

b,BTS路線は、2路線25駅ありサイアム駅が乗換駅である。23kmを6:00―24:00ラッシュ時間帯2―3分間隔、平均5分間隔でダイヤはない。延伸ルートも建設中であるが、営業サービスにより利用者の向上に努めている(アクセスシャトルバス、駅舎にベンチの設置、割引カードの拡大と導入、英語放送の導入等々)。

c,繁華街の中心地を走行するので便利だが、EV(エレベーター)やES(エスカレーター)の未設置駅がある上、駅周辺へのアクセスは道路幅や歩道が狭いのでバスや車からの乗り換えを含み困難である。

*(2004年8月12日には地下鉄が開業する。路線は20km、駅数18駅でBTSと3駅で接続する。)

 

4、沖縄都市モノレールの概要…・省略

*(2003年8月10日開通した。空港から首里まで13km15駅。1日利用者目標34897人・・開業3ヶ月現在では未達成、イベントのある日は大幅に利用者増。バス会社との調整に難航。駅周辺開発はこれからのところが多い。)

 

5、琉(沖縄)・泰(タイ)の高架軌道鉄道機関からの考察

a,沖縄の軌道交通導入促進運動は、我が国で唯一の「軌道交通無し県」という屈辱への思いと悲願であった。もちろんバス中心の交通では時間が守れない。環境が破壊される。交通事故が起こる。バスルートが分かり難い。車内の混雑等の不安・不満等がある。これらの問題解決は、バンコクでも那覇でも同じである。その結果、バス会社は、経営が悪化し運賃が上がりますますサービスが低下している。中流階級以上の層はバンコクでも那覇でも自家用車やタクシーに依存する構図は同じである。特に沖縄は第二次大戦後、米軍の基地に取られたため地上交通はアメリカ型車社会になった。タイでも河川交通(運河)の時代があった、しかしドイツのコンサルタントの意見により車型社会構造に変えられ、多くの河川が埋められ道路になったためと車の大幅な増加とが重なりますます複雑化していった。

b,タイや沖縄の取り組み・決定の遅さは政府や関連先の思惑がある。特に事業の経営方式に重点が置かれる(タイでは30年後、沖縄では25年後に黒字予定)。600万都市と30万人都市とでは需要予測は同じにできない。沖縄ではバス企業4社への配慮に時間が掛かった。

c,沖縄の路線の特徴は、観光地と繁華街・ビジネス街を結んだ路線で、将来は住宅地開発が期待。タイの路線の特徴は、ビジネス街と繁華街・高級住宅街とを繋いだ点にある。沖縄では、すでに延伸策があるが、採算面で疑問視されている。ただモノレールとバスとの調整に関してバス路線の再編成が大胆に成されるだろう。一方、600万都市バンコクでは他の都市交通機関との接続や自己路線網の拡大が決め手となろう。

 

6、まとめ

いずれの都市も多くの問題を抱かえている。新交通システムのバンコクとモノレールの那覇市に選択は別れた。タイでの選択は、3つのプロジェクトによる都市交通網計画があり、BTSはその一つである。両都市とも高架鉄道のため景観やプライバシーなどの問題も発生するだろう。経営や新規ルート及びサービス・運賃などの問題もあるだろう。しかしながら今後とも利便性の高いそして格安な都市住民の足として定着する事を期待している。

*(日本モノレール協会誌には「沖縄特集」が何回か組まれている。筆者もBTSの紹介と沖縄都市モノレール「ゆいレール」の取材記を発表。)

 

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