さいたま市民文芸第6号随筆入選
平成19年11月3日
タイの山岳少数民族
中国の山岳地方には50民族以上の綺麗な衣装を着けた少数民族が伝統的な生活をしています。しかしながら段々と大多数派の漢族たちや地元との融合がすすんでいます。かといって少数民族者たちの長年の反政府独立運動が中国でもそしてタイでも他の東南アジア諸国でもあります。現在中国の雲南省では少数民族中心の自冶区や自冶州がいくつかあります。かつてはそこからタイやビルマなど近隣国からインド周辺まで、とくにの東南アジア各国には長い時間をかけて移動しています。主に集団で移動し新しい地に生活のための集落をつくります。人口規模は概して小さく多くの人たちは今も山岳地に住んでいます。
タイには中国以上のそんなに多くの山岳少数民族は住んでいません。11民族程度です。その伝統的な文化は貴重です。女性の綺麗な衣装だけでなく伝説や風習をはじめ精霊信仰などもあります。ひとつひとつの集落や民族を取材し、資料を集めたカノミタカコさんは、著書「神話の人々―タイ山岳民族の染織工芸」で≪独自の風俗習慣、信仰、言語を守って暮らしているこの人々の存在は、まことに貴重な文化人類学の生きた資料である≫と言いながら、伝統文化の崩壊や経済主義優先の生活に寂しさを表しています。
最近、山岳少数民族たちの生活のいくつを垣間見ました。
まずタイ北部には中国の内戦により新たに移動してきた元国民党の中国人部落が2000m級の山岳地にあります。その中国人たちと少数民族たちの共同村であるメーサロン村は独特の文化を形成しています。中国人の出身地は雲南省が多いですが、中国国内各地からもきています。ここには中国人子弟のための学校(文明中学)があります。山岳少数民族の子弟たちも受け入れています。授業はすべて中国語です。朱子学や論語そして中国音楽など授業科目も中国と変わることもなく、生徒約200名に対し教材や教師も充実しています。教科書以外の副読本には中国の習慣とともにタイで生活する上での必要な手続きも教えています。ここには立派な仏教寺院だけでなくキリスト教会もイスラム寺院もあります。そしてお茶やイチゴなどの山岳地独特の作物栽培をはじめ鶏の生産地ですので生活も安定しています。そのため今は子弟の教育に力を注いでいます。メーサイの町の寺で知り合ったこの中学校出身のラフ族で15歳の少年チャチャイ君の実家は、ここの斜面にあります。父親はバンコクに出稼ぎにいったまま5年も帰ってきません。純中国人系少数民族以外の民族の生活環境は低く侵攻してきた中国人たちの次です。仕事や家屋そして服装などに貧富の差がはっきり見えます。食事も中国人のような豪華さはありません。動物性タンパク源である肉類の食材を38キロ離れた町まで買いにいける層は限られています。
ここは気候が大変よく景色もいいので観光地としてもクローズアップされています。山桜も道路際に植えられています。そんな山岳地の観光産業に中国人以外の山岳民族たちが露天商として従事しています。
もうひとつタイ北部の高原にあるウイアングクラーン村での話です。ここには5つの山岳少数民族が通う小学校があり大変教育に力を入れています。校長先生は「日本の子供に比べ身長も低く、体力も落ちます。それは貧困と親の無知です」と嘆いています。しかしパソコン教育やカラオケが歌えたり、宗教教育があり、反対に羨ましいとの思いです。
ここの村は主に米の生産とパイナップル、苓枝などの果物の生産地です。しかしながら生産物の価格は低く、日々の現金を求め近くの町や大都会に出稼ぎに行きます。大規模農業の農家へ日雇いに行っても日本の一時間程度の収入を一日炎天下で働いてもらっています。皆さんお互い助け合って生きています。伝統の文化である踊りや音楽を正月などに再現する余裕も見えます。しかしどんな村にも小学校そして寺院はありそこが文化の中心地です。まだまだ中学への進学率は4割程度です。一人が負担する毎月の授業料や交通費そして昼食代で家族みんなが食べる金額と同じです。
もっともっと教育の機会や生活の豊かさを向上させそして健康的に生きてほしいと思っています。
今はどこの家にもある唯一の娯楽であるテレビを見て外国や都会の風景がどこの国のどこの話として映っているのだろうか。と思います。
山岳少数民族地域の共通項は、生活が厳しい中でも子供を大切にしています。学校の教師や村の僧侶たちも慈悲の心で接しています。子供たちの家庭内暴力、校内暴力そしていじめや自殺はありません。これからも伝統文化を守り団結を堅持してほしいと念願しています。
―完―